RSウイルス感染症は、乳幼児の代表的な呼吸器感染症です。非常に感染力が強く、2歳までにほぼすべての乳幼児が一度は感染すると言われています。多くは軽い「鼻風邪」で回復しますが、特に1歳未満(特に生後数ヶ月)の乳児や、予定日より早く生まれた赤ちゃん、心臓や肺に持病があるお子さんがかかると重症化しやすく、細気管支炎や肺炎を引き起こすことがあります。このコラムでは、RSウイルスの特徴、見逃してはいけない重症化の危険サイン、自宅でのホームケア、整理された最新の予防策について小児科医が詳しく解説します。
RSウイルスとは?何度もかかるウイルスの特徴
ハマッコ
RSウイルスって、どんなウイルスなの?
RSウイルスは、呼吸器(のど、気管支、肺)に感染する風邪ウイルスのひとつです。非常にありふれたウイルスで、1歳までに約50%以上、2歳までにほぼ100%の子どもが初感染を経験します。
感染力が非常に強いため、保育園や幼稚園などの集団生活の場では、あっという間に広がります。また、一生のうちに何度も繰り返し感染する特徴があります。ただし、2回目以降の感染では体内に免疫ができているため、多くは軽い鼻風邪程度で済み、年齢が上がるにつれて重症化するリスクは減少します。
例年、夏から秋にかけて大きな流行が見られましたが、近年は流行の開始時期が早まり、春先や初夏から患者数が増加するなど、流行パターンが変化しています。季節を問わず、年間を通して注意が必要です。
風邪とどう違う?RSウイルスの代表的な症状
感染から4〜6日程度の潜伏期間を経て、以下のような症状が現れます。
- 初期症状:発熱、鼻水、咳など、一般的な風邪と区別がつかない症状から始まります。熱は38〜39度台まで上がることがありますが、出ないこともあります。
- 中期の症状(3〜5日目):咳がだんだんと強くなり、呼吸をするときに「ゼイゼイ」「ヒューヒュー」という音が混ざるようになります(喘鳴)。
- ピーク期(5〜7日目):通常、発症から5〜7日目頃に咳や呼吸の苦しさがピークを迎えます。その後、徐々に回復に向かいますが、咳が完全に落ち着くまでには2〜3週間かかることも珍しくありません。
ハマッコ
普通の風邪より咳やゼイゼイが長引くんだね
見逃さないで!乳幼児の「呼吸の危険サイン」
特に生後数ヶ月以内の赤ちゃんは、空気の通り道(気管支)が非常に細いため、ウイルスの影響で気管支が腫れたり痰が詰まったりすると、容易に呼吸困難に陥ります。以下のような症状が見られた場合は、重症化している(細気管支炎や肺炎などを起こしている)可能性があるため、ただちに受診してください。
- 陥没呼吸(かんぼつこきゅう)
- 息を吸うときに、肋骨の間や、お腹と胸の境界(みぞおち)、のどの下がペコペコとへこむ呼吸です。一生懸命に空気を吸い込もうとしているサインです。
- 鼻翼呼吸(びよくこきゅう)
- 息を吸うたびに、小鼻がヒクヒクと膨らんだりしぼんだりする呼吸です。呼吸が苦しいときに見られます。
- うなるような呼吸(呼気時呻吟)
- 息を吐き出すときに「ふー、ふー」「うー、うー」とつらそうにうなる音が聞こえます。肺が潰れるのを防ぐために、無意識に呼吸に抵抗をかけている危険な状態です。
- 呼吸が浅く速い(多呼吸)
- 呼吸の回数が明らかに普段より多く、肩で息をしています。息が荒く、ぐったりして視線が合いにくい場合も要注意です。
- 哺乳力の低下・強い鼻づまり
- 乳幼児は主に鼻で呼吸するため、大量の鼻水で鼻が詰まると、おっぱいを吸う間に呼吸ができなくなります。「息が苦しくてミルクが飲めない」「1回に飲む量が極端に減った」という場合は、脱水症のリスクも高まります。
治療と自宅での正しいホームケア
手足口病などと同様に、RSウイルスには原因となるウイルスを直接退治するような「抗ウイルス薬」はありません。そのため、症状を和らげて体がウイルスを退治するのを助ける「対症療法」が治療の中心です。
症状を和らげる薬の対応
- 痰絡み・鼻水へのケア
- 去痰薬(痰を出しやすくする薬)の内服。また、小児科クリニックでの鼻汁吸引や、ご家庭での家庭用鼻吸い器を用いたこまめな吸引が非常に有効です。
- 咳・ぜいぜい(喘鳴)へのケア
- 気管支を広げる貼り薬(気管支拡張テープ)や内服薬、あるいはクリニックでネブライザーを用いた気管支拡張薬の吸入治療を行います。
- 発熱へのケア
- 体がだるそうにしている場合や、水分が摂りにくいときには、アセトアミノフェンなどの解熱剤を適切に使用します。
ご家庭でのホームケアのポイント
- こまめな鼻吸引:鼻がつまると呼吸が苦しくなり、睡眠や哺乳の妨げになります。授乳前や寝る前には、しっかりと鼻水を吸い取ってあげましょう。当院でも鼻吸引のみの受診を歓迎しております。
- 室内の加湿と水分補給:のどや気管支の粘膜が乾燥すると、痰が粘り気を帯びて硬くなり、吐き出しにくくなります。加湿器を使用し、部屋の湿度を50〜60%に保ちましょう。また、水分を少しずつこまめに含ませることも痰を柔らかくするのに有効です。
- 上体を少し高くして寝かせる:咳やゼイゼイで寝苦しそうなときは、布団の下にバスタオルなどを敷いて、上体を少し起こした姿勢(傾斜をつける)にしてあげると、呼吸が少し楽になります。
重症化を防ぐための抗体接種と予防ワクチン
これまでRSウイルスには効果的なワクチンがありませんでしたが、近年、ハイリスク児の重症化を防ぐ抗体製剤や、赤ちゃんを守るための新しい妊婦向けワクチンが登場しています。
① シナジス(一般名:パリビズマブ)
特定のハイリスク乳幼児(予定日より早く生まれた赤ちゃん、生まれつき心臓や肺に持病があるお子さん、ダウン症のお子さんなど)を対象に、RSウイルスの抗体を体内に直接補充する注射です。流行期の間、月に1回継続して接種することで、万が一感染しても重症化を防ぐ効果が期待されます。(保険適用対象の方のみに処方されます)
② ベイフォータス(一般名:ニルセビマブ)
シナジスと同様の抗体製剤ですが、1回の注射で約5ヶ月間(1シーズン中)効果が持続する新しいお薬です。主に大学病院や総合病院などでハイリスク乳幼児を中心に接種が導入されています。
③ アブリスボ(妊婦向けRSウイルスワクチン)
お母さんが妊娠中(妊娠24〜36週、推奨は28〜36週)に受けることで、胎盤を通じて赤ちゃんに強力な抗体が移行する予防接種です。生まれた赤ちゃんは、生後少なくとも6ヶ月間の間、RSウイルスによる重症の呼吸器疾患にかかるリスクが大幅に低下することが示されています。
当院でもアブリスボの接種を行っております。詳しい予約方法や対象期間については、以下のページをご確認ください。
登園・登校のめやす
RSウイルス感染症は、法律で定められた一律の出席停止期間はありません。他の風邪と同様に、「熱が下がり、咳やゼイゼイなどの呼吸苦が落ち着いて、元気に十分な食事や水分が摂れるようになっていること」が登園再開の目安になります。
ただし、症状が落ち着いた後も、便や呼吸器から数週間〜1ヶ月にわたってウイルスが排出され続けます。周りへの二次感染を防ぐため、回復後も丁寧な手洗いを継続しましょう。
ヒトメタニューモウイルス(hMPV)との違い
RSウイルスと非常によく似た症状を引き起こすウイルスとして「ヒトメタニューモウイルス(hMPV)」があります。両者は同じ「ニューモウイルス科」に属し、症状だけで見分けることはほぼ不可能です。主な違いは以下の通りです。
| 項目 | RSウイルス | ヒトメタニューモウイルス(hMPV) |
|---|---|---|
| 初感染の年齢 | 1歳までに50%以上、2歳までにほぼ100%が感染。 | 2歳までに約50%が感染し、10歳までにほぼ全員が感染。 |
| 流行しやすい時期 | 近年は年間を通して流行が見られます。 | 主に春から初夏(3月〜6月頃)にかけて流行します。 |
| 特徴 | 生後数ヶ月の非常に小さな乳児での重症化リスクが高い。 | やや年齢が上がった幼児期(1〜3歳)でゼイゼイや高熱が長引きやすい。 |
どちらのウイルスも根本的な治療薬はなく、自宅でのホームケアや鼻吸引、対症療法が治療の基本になります。診断名にかかわらず、お子さんの呼吸状態や元気があるかどうかを注意深く観察することが最も大切です。
まとめ
RSウイルスは、2歳までの赤ちゃんが一度は通る身近な病気ですが、小さな乳児にとっては呼吸困難を引き起こす注意すべき疾患です。家庭での丁寧な鼻水の吸引や加湿を行いながら、「呼吸のときに胸がへこむ」「ミルクが飲めずぐったりしている」といった危険サインが見られた場合は、躊躇せず当院またはお近くの医療機関を受診してください。